日常生活において、あまり耳にすることの少ない「セットバック」という言葉ですが、住宅の購入や建て替え時に度々見かけます。気になる土地の資料に「要セットバック」と記載されていたり、建て替え工事を相談した建築会社から「建て替えする際にセットバックが必要」と言われたりすることがあるでしょう。「要セットバック」の場合、土地面積が変わり後悔する可能性もあるため、注意点などを十分に理解して購入する必要があります。
そこで本記事では、セットバックの基礎知識や注意点、よくある質問についてまとめました。注文住宅の購入にあたり土地探しをしている方や、将来的に住宅購入や自宅の建て替えを控え、セットバックに関する理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。
セットバックとは
セットバックとは、土地と前面道路の境界線を後退させ、建物を建築することです。建築基準法では、「建築物が建つ敷地は、道路に2m以上接しなければならない」といった接道義務が規定されています。建築基準法で定められている道路は、避難や通行の安全の目的から幅員4m以上としています。ただし例外として、幅員4m未満の道路でも、建築基準法上の道路として認められるケースがあり、その道路に敷地が面する場合にセットバックが必要です。
例外的に認められる道路は「2項道路」や「みなし道路」と呼ばれ、みなし道路に面しているからといって、すでに建っている建物を後退させる必要はありません。敷地に建物を新築する際や建て替えをする際に、一定のスペースを確保します。セットバックは、接道義務を果たすために必要なルールといえるでしょう。
セットバックはどんな時に必要?
セットバックが必要になるのは、先述のとおり「2項道路」や「みなし道路」に面している敷地で、建物の新築や建て替えをおこなう時です。原則として、接道義務を満たしていない土地に建物の建築はできません。セットバックをおこなうことで接道義務を果たし、新たな建ぺい率・容積率などの制限に収まる建物の建築が可能です。
また、セットバックは狭い道路を拡幅する目的もあります。幅員2m未満の道路の場合は車が通るのも困難なうえ、自転車や歩行者のすれ違い際に接触事故が起こる可能性があるでしょう。住宅地に面する道路では車や自転車、歩行者などの通行は避けられないため、安全のために自治体主導のもと、セットバックがおこなわれることがあります。
例外的に建築基準法上の道路として認められるのは、建築基準法第42条第2項で以下の条件を満たしているケースです。
- 幅員4m未満である
- 建築基準法施行(1950年11月23日)以前から道路に面する建物が存在する
- 特定行政庁の指定を受けている
セットバックすることで道路幅を4m以上確保し、セットバック部分には建物を建築することができません。なお、セットバックして設けた道路は私道となるため、「私道負担」と呼ぶこともあります。
セットバックの幅の決め方
セットバックの幅は、道路の反対側の土地の状況によって計算方法が異なります。以下では道路を挟んだ向かい側に建物がある、向かい側の土地がセットバック済みの、向かい側が川や崖、線路などである場合の3つのパターンのセットバック幅の決め方について解説します。
道路を挟んだ向かい側に建物がある場合
道路を挟んだ向かい側に建物がある場合、道路の中心線から水平線で2mの位置までセットバックが必要です。向かい側の土地・建物の持ち主も、同様の計算で後退しなければなりません。例えば敷地に面する道路の幅員が2mの場合、それぞれ1mずつセットバックすることで、4mの道路幅を確保できます。
道路を挟んだ向かい側の土地がセットバック済の場合
前述のように、道路を挟んだ向かい側の土地と道路中心線から、それぞれ同じ幅のセットバックが必要になるのが一般的です。しかし、向かい側の土地がセットバック済みの場合、セットバックが済んでいないほうのみ、おこなう必要があります。
先に説明した状況と同様に道路幅が2mの場合、道路中心線から2mの位置までセットバックすることは変わりません。向かい側の土地がセットバックしているかどうかは、自分の敷地と前面道路の境界線から向かい側の境界線まで3mあるか確認すればわかります。セットバック済みかどうかは見た目でもわかりやすく判断できますが、道路中心線がわかりづらいケースもあり、どの程度のセットバックが必要か計算しづらいかもしれません。
そのため、自治体の建築指導課や道路管理課などに確認するようにしましょう。
道路を挟んだ向かい側に川や崖、線路などがある場合
一方、道路を挟んだ向かい側に川や崖、線路などがある場合は、向かい側が宅地の場合と比べて計算方法が異なります。川や崖があるほうは境界線を下げられないため、片方のみのセットバックとなり、道路幅が2mであれば、自分の敷地側をさらに2m後退させなくてはいけません。このパターンではセットバックの範囲が広がるため、敷地面積が想定よりも減ってしまう点には注意しましょう。
セットバックにかかる費用
セットバックにかかる費用の相場は、30万~80万円程度です。主に土地の測量費、敷地と道路用地の分筆登記費用、道路用地部分の整備費用などが含まれます。土地の測量には「現況測量」と「境界確定測量」の2種類があり、隣地境界が定まっていない確定測量をおこなうには隣地所有者との協議が必要になるケースもあるため、手間や時間がかかり高額になりがちです。
また、アスファルト舗装や工作物の解体などさまざまな要素によって、費用は大きく異なります。あらかじめ見積りを取って、十分に検討しましょう。
次に、セットバック費用の負担先や、支払う必要があるものなどを解説していきます。
セットバックの費用は誰が負担する?
セットバックの費用負担は、基本的に全額土地の所有者です。ただし、自治体によっては費用の一部負担や、助成金の支給を実施しているところもあります。自治体ごとに助成金の範囲や金額は異なりますが、セットバック費用は決して安価なものではありません。そのため、事前に管轄の役所に確認し、必要に応じて助成金制度を活用しましょう。
セットバックした土地は自治体に買い取ってもらえる?
セットバックした土地の上には建築物を建てることができず、利用制限もあるため、「自治体に買い取ってほしい」と考える方もいるでしょう。しかし、道路となった土地に資産価値はなく、基本的に寄付となるケースが一般的です。セットバックにかかった費用は自己負担のままであるほか、寄付する場合は契約や所有権移転の手続きも必要となるため、寄付するための手間などを考慮して十分に検討しましょう。
場合によっては、助成金の支給や買い取りをおこなっている自治体もあります。実際に神奈川県鎌倉市では、セットバックした土地を固定資産評価額の20%の価格で買い取る「狭あい道路拡幅整備事業」を実施しています。セットバックにかかる測量・分筆費用などを市で負担してもらえる制度になっており、土地所有者の負担を軽減することが可能です。
条件は自治体によって異なるため、事前に確認してみましょう。
固定資産税は払わないといけない?
セットバックした土地は「道路」になるため、固定資産税を支払う必要はありません。ただし、セットバックをしたからといって、自動的に固定資産税が免除されるわけではないので注意しましょう。非課税の適用を受けるには、自分で役所に申請する必要があります。具体的な申請の手続きについては、各自治体の建築指導課や道路管理課などに問い合わせて確認しましょう。
要セットバック物件を購入する際の注意点
一般的な物件と比べて、要セットバック物件を購入するにはさまざまな点に注意が必要です。あらかじめポイントを把握したうえで購入すれば、懸念点への対策ができるほか、通常よりも安価に購入できるなどのメリットを享受できるでしょう。以下では、セットバックが必要な物件を購入する際の注意点を解説していきます。
セットバックした部分は道路として扱われる
元々自分が所有する土地の一部をセットバックすることになりますが、セットバック部分の土地は道路として扱われるため、私有地としての使用はできません。塀やフェンスを設置したり、駐車場として使用したりすることは、建築基準法違反にあたります。要セットバック物件を購入する際は、セットバック後の面積を前提に門や駐車場を設計するようにしましょう。誤った設計にならないよう、セットバック後の土地の形状をしっかり把握しておくことが大切です。
建築に使える面積が狭くなる
前述のとおり、セットバック部分の土地は道路として扱われ、建ぺい率や容積率を計算する際の敷地面積から除外されます。そのため、セットバックが不要な土地と必要な土地がそれぞれ同じ面積の場合、セットバックが必要な土地のほうが建築に使える面積が狭くなるので注意しましょう。セットバック前の敷地面積で計算をしてしまうと、実際に建築できる面積や建物のイメージが大きく異なります。特に既存の住宅を建て替える際は、既存住宅と同じサイズを基準に考えがちなので注意が必要です。
利便性や安全性を確認する
要セットバック物件が面する道路は、幅員が狭い2項道路です。家の前の道路が狭いと、消防車や救急車などの緊急車両の通行が困難なため、万が一の際の安全性が担保されません。また、緊急車両だけでなく一般車両についても同様です。毎日の通勤や買い物の際の車の出し入れがしづらく、不便に感じてしまうこともあるでしょう。最低限の利便性や安全性を確保した条件であることを、あらかじめ確認しておくことが重要です。
セットバックに関するよくある質問
最後に、セットバックに関するよくある質問を以下にまとめました。本記事内の重要なポイントのおさらいにもなりますので、しっかり確認しておきましょう。
セットバックとは?
セットバックとは、土地と前面道路の境界線を後退させて建物を建築することです。幅員4m未満の道路でも、建築基準法施行以前から道路に面する建物が存在している場合や、特定行政庁の指定を受けている場合は例外的に建築基準法上の道路として認められ、そのような道路を「2項道路」や「みなし道路」と呼びます。狭い道路を拡幅し、避難や通行の安全を確保する目的として、2項道路(みなし道路)に面する敷地に建物を新築・建て替えする際はセットバックが必要となります。
セットバックの費用は自己負担?
セットバックの費用負担は、原則として全額土地の所有者の自己負担です。セットバックの費用には、土地の測量費や敷地と道路用地の分筆登記費用、道路用地の整備費用などが含まれ、30万~80万円程度が相場となっています。自治体によっては費用の一部負担や助成金の支給を実施しているところもあるため、管轄の自治体に確認してみましょう。
セットバック済かどうか確認するには?
セットバック済みかどうかを確認するには、以下のような方法があります。
- 実測で確認する
- 土地の周辺状況から確認する
- 役所に確認する
目視でもわかりやすいケースがありますが、実測や見た目では正確に判断できません。管轄の役所の建築指導課や道路管理課などに問い合わせ、確認する方法が確実です。
セットバックした部分に車を置いてもいい?
セットバック部分を駐車場として利用することはできません。セットバック部分の土地は「道路」の扱いとなり、車を置いたり塀を設置したりすることはできず、私有地のように使用すると建築基準法に違反します。セットバック後の敷地面積や土地の形状をあらかじめ確認し、敷地内の設計を適切におこなうようにしましょう。
セットバックは拒否できる?
「要セットバック」となっている場合、セットバックを拒否することはできません。購入時、すでに建っている建物にそのまま住むことは可能ですが、新築する際や建て替えする際はセットバックしなければ建築工事ができません。セットバックが必要な物件を購入する際は、セットバック後の敷地面積やその他条件、費用面なども確認して検討しましょう。
まとめ
今回は、セットバックに関する基礎知識について解説しました。セットバックの意味や注意点を知らずに購入してしまうと、希望する家を建てられなかったり、思わぬ費用が発生したりと後悔してしまうかもしれません。セットバックは、主に周囲に住む人にとって安全面を確保するためにおこなうことです。セットバックによって利便性や安全性の向上を期待できるほか、土地を相場より安く購入できる可能性があるため、十分にポイントを押さえたうえで購入を検討するようにしましょう。